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Diary : Sole / Lune / Terra / Caelum
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21: _(過去の録音より)
2026-01-17 03:03:50

無名の噺家

▼オノマトペテン師
この度は皆様、ご覧いただきありがとうございます。これから私がお話致しますのは、嘘か本当かもわからぬ小話・与太話にございます。まだまだ無名故少々拙いものではございますが、許す限りの皆々様のお時間をいただければ至極幸いに存じます。

時に、これと似たような話は聞いたことがありませんでしょうか。…

「おう、奥さん。ちょいと、ちょいと」
「はい、何でございませう」
「奥さんあのね、あの〜…あれだ」
「はい。あれと申しますと」
「あれだよ、あれ。そこの裏に、あの〜…でっぷりとしたわさわさ葉をたくわえた木が生えていやしなかったかい」
「ええ、確かに。幹の太い高々とした木でございましょ」
「そうそう、それだ。そのでっぷり高々とした木の持ち主を知らねぇかい」
「ええ、庄助と言ったはずでございます」
「庄助ってぇとあいつかい、ひょろひょろといかにもくたびれた面ァしたやつだ」
「いいえ、どちらかと言ふと細身でも横広くもなく」
「なんでい、それじゃあぱっともすんともしねえじゃないかい。その奥さんの言う庄助って男に他に特徴はないのか。ずんぐりずんぐりしてるとか、ちまちまちまちましてるだとか」
「はあ、へえ。先程から擬音ばかりで何が何やらさっぱり。一体全体何がどうと仰りたいんです」


擬音、擬声、そして擬態。こういった音や感覚などを文字に起こした単語とも言い難い言葉の並びを、「おのまとぺ」と言うのでございます。
名称のつかぬものまで話に乗せられる大変便利な「おのまとぺ」でございますが、日本でそう呼ばれるようになりましたのはおよそ1960年代前後。比較的最近こう言うようになりました。しかしこのような言葉が使われ始めましたのは奈良時代、712年の記録が最古とされます。1300年以上もの間使われ続けている歴史ある文化というわけです。なんでもこの国はこういった言葉数が各国と比べ最多、非常に幅広く生み出されていたというわけなんですねえ。この時も例外なく、いえむしろ大流行の間際といったところでしょうか。言葉遊びのひとつとして、または感性を表す手段として多くの「おのまとぺ」が蔓延り始めておりました。

いや、とは言えこの「おのまとぺ」。言葉数が多いということは明確な定義がないということ。冒頭で挙げました会話でも、ずんぐりずんぐりだの、ちまちまちまちまだの、ああも音ばかりを重ねられては何が言いたいのかさっぱり相手には伝わらないといったものでございます。
ほと・ほと・困り果てた奥さんはこの後、米屋の主人の元へ駆け込み事の顛末を相談しました。


とんとん。とんとんとん。
「旦那さま、旦那さまどうか、どうか聞いてほしいのです」
がらがら。
「ええいなんだいなんだい。ばたばたそそっかしいと思えばこれはこれは珍しい顔じゃないかい、一体何があったんで」
「それが聞いてくださいな。そこの辻の角の酒屋の主人がずんぐりずんぐりだの、ちまちまちまちまだの、奇妙な言葉を使うもので何が何だかてんでわかりもしないのです」
「なに?ずんぐりずんぐり?これまたすってん訳のわからんことですったもんだがあったもんだ」
「ええ、ええ。要領の得ない返答ばかりなんでございますよ。何を聞かれているのかがわかりませぬ故、どう返して良いかもわからないのです」
「そいつあ、またなんとも」
「なんとかできないものでせうか。角の酒屋の主人とは付き合いが長いもので、これきりともできず…」
「まあ、まあ。そうそうどんよりしょぼしょぼ落ち込みなさんな。なあに、そいつだって戯えてからからお前さんを困らせたいんじゃないだろうさ。ああ、そうだ!ばちんとおあつらえ向きがあるじゃあねえかい」
「へえ、なんと。それはどういう」
「おれがそいつに言葉のたしなみってえやつを教えてやろう。ようはそいつが何を伝えたいのかがしっかりかっちりぴんとんしゃん、伝わりゃあいいんだろう」


米屋の主人は自分の言葉に何度かうんうん頷きまして、奥さんを家まで帰しさっそくと出支度を整えました。向かうは件の酒屋、この主人に「おのまとぺ」の使い方を教えに行った訳なのでございます。
果たして功を奏したか否か。翌日のそのまた翌々日にはたちまち「おのまとぺ」を使いこなす口の上手くなった酒屋の主人の噂話が出回り、それ以降酒屋は来る日も来る日も大盛況となったのだとか。話は一件落着か、そう思われました矢先。これを火種にか、「おのまとぺ」を教え歩く人物なる者が現れては町中で大流行。やがてこれを乱用する輩が湧いて出たのです。あの先程の酒屋の主人のようにですね、3つ繋げては「3まとぺ」なんて言ったりもしまして。「5まとぺ」なんて出たりもした日にはもう大変なのでございますよ!多くの混乱と感嘆で場が溢れかえっておりました。それがまた困ったことに役所で起こったものですから、役人たちはどの言葉が手続きの本文か分からずどう処理したものか頭を抱え、一連を聞いた民衆が見事な言葉遊びの羅列に拍手に大歓声。瞬く間にこの流行を根強く、またより広いものに致しました。
この辺りからですね、「おのまとぺ」というものの脅威的な流行り方とその奇妙な語感に、役人を中心に怪言葉・奇天烈言葉なんてですね、揶揄もされておりました。とんでも恐ろしい言葉でございますから、ええ。これらのお陰で徐々に政だけでなく商いにも影響が出始めまして、話のひとつもまともに進まないってんで満足に立ち行かなくなる始末でございました。
そういえば、いつからかこの怪言葉を振り撒いていった人物の中には「おのまとぺ」と言いつつも音にそっくりそのまま別の文章を当て込んだ、これまでと性質の異なるものを用いていた輩も居たとか居なかったとか。まあ、あくまでも噂話でございますから。とはいえ、本当にそうあってはいよいよ大変でございます。どこからどこまでが意味を持つ文章なのかわからぬまま、そうしてまた現れたのでございますよ。……あまり大きな声で言えたものじゃあありませんけどねえ。その、これまでと全くタチの異なる言葉を振り撒く音の葉の詐欺師、曰く「オノマトペテン師」なる輩が……。
すっかり日の落ちても尚お構い無しに歓声にどよめく場から背を向け、ざっざっざっ。ぜえはあ。息を切らしやっとのことで米屋に向かう男がひとり。辿り着くや否や、わっと戸に飛びついて腕を振り翳しまして。


とんとんとん。とんとんとんとん。
「旦那ァ、旦那ァ!起きていやすかい?あっしです、いぶりがっこ売りのいぶ吉でやす」
がらがら。

(※音が途切れていたため中略)

…ええ。これが本当の、あきない商売でございます。

――いやあ、癖になるたまらない音・言葉遣いにくう、と喉を鳴らしますれば、米屋の主人はこうしてはいられないと「春夏冬」の秋ない看板を下ろして稲穂の模造を取っ払い、品物をまとめ始めました。


「旦那、店を畳んじまうんですかい?」
「こうとなっちゃあ2、3日はあちらに吸われちまうだろうよ」
「何言ってるんですかい、旦那の口の上手さだって負けてはいやしませんで」
「お前さんもそういう時ばかり上手くなりやがって。1日は少なくとも様子を見させてもらおうかい。なあに、件のペテン師の面をちょいと拝みに行こうかと思ってな」
「ほう、へえ、面を」
「なんでも噂の大半はよく口の回る若い男だって話だが、そいつが遣う言葉ってもんを直で聞いてみてえとは思わねえかい」
「なるほどそいつあいい。旦那、あっしもついていきやす!待ってくだせえ」


かくして男2人、ペテン師が出たと噂の渦中にある辻へ向かった訳なのですが…おおっと間もなくお時間という訳でございまして、後のお話はまたの機会と致しましょう。ところでペテン師はいくつかの顔を持ちまして、冒頭の話中では米屋の主人が酒屋の主人に「おのまとぺ」の使い方を教えておりました。最初に出たペテン師というのは、酒屋の主人のことだったのでしょうか。所詮は噂話、詳細も出どころも分からぬままなのでございます。それでは皆様、ててんととんとんばさり。これにて。


「旦那ァ!旦那、どちらに」
ああいぶ吉、なんだいまだそんなところにいたのか。
…お前さんが遅いからもうすっかりここも空になってしまったじゃねえかい……

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